異業種企業との交流や共創が、金融サービスの新たな流れをつくっていく。

株式会社静岡銀行

ダイレクトチャネル営業部ダイレクトチャネル営業企画グループ
原田健希さま

経営企画部デジタル戦略企画グループ
渥美直人さま

「競争」ではなく、「共創」という選択。 ユーザーにとって価値のあるサービスをFintech企業と共につくる。

私が所属しているダイレクトチャネル営業部には、大きく分けて2つのミッションがあります。
1つは、非対面チャネルによってお客さまが来店せずに手続きできるサービスを増やし、お客さまとの日常的な接点を確保すること。
もう1つは、お客さまがお金に関する相談をしたいと思われた際に、その相談相手として静岡銀行を選んでいただき、非対面チャネルから気軽に店舗相談できるようにすることで対面チャネルをサポートすることです。そのミッション達成に向けた手段の1つとして、ITやデジタルの技術を活用できないか検討しています。

例えば、非対面チャネルを推進するために、インターネットバンキングを進化させてきました。私たちは「しずぎんダイレクト」というインターネットバンキングをお客さまへ提供しているのですが、パスワードが多くログイン手続きを面倒に感じるお客さまが多いことや若年層のお客さまは振込などをする機会が少なく、あまり利用されていないという課題がありました。そこで、お客さまから集めた声をもとに、残高や入出金明細などの照会サービスに特化し、さらに手軽に利用できる「しずぎんダイレクトライト」の提供を始めるなど、お客さまとの接点を増やすためのさまざまな取り組みを行ってきました。

「しずぎんダイレクトライト」の提供開始後まもなく、“Fintech”という言葉が話題になり始め、IT技術を得意とするベンチャー企業が、IT技術を駆使して、本来銀行が行うべきサービスを次々に商品化していたことで、非常に危機感を抱きました。
例えば、Fintechサービスの1つである家計簿アプリでは、当行を含めたさまざまな銀行口座の残高や、複数のクレジットカードもまとめて管理できるようになります。このようなアプリが浸透した場合、お客さまは家計簿アプリを通じて銀行の残高を確認するようになり、これまで構築してきた銀行とお客さまの接点も薄れてしまいます。

しかし、この“Fintech”の流れは、お客さまがより便利に銀行サービスを利用したいという思いから作られたものであり、この流れは抗えるものではないと考えました。

そこで、Fintech企業を脅威とみなして「競争」するのではなく、共にサービスをつくり当行のお客さまに対し、より価値のあるサービスを提供することで、「共創」していくことができないか考えました。これがマネーフォワードさまと提携し、「マネーフォワード for 静岡銀行」を導入したきっかけです。

導入にあたっては数社比較検討させていただきましたが、マネーフォワードさまを選んだ理由は、金融関連サービスと連携できるアグリゲーション技術にたけていること、UI/UXが見やすくデザイン性に優れていること、また私個人も『マネーフォワード』を以前から使わせていただいており、1ユーザーとしてとても気に入っていたことが決め手でした。

ベンチャーならではの速さで一気に サービスリリースまで進行。

サービス導入が決定してからの進行はスピーディでした。ベンチャー企業との文化の違いを目の当たりにして、正直戸惑う場面もいくつかありました。
たとえば、担当者同士の打ち合わせの際に発生した確認事項や疑問点について、打ち合わせの最中に社内のチームにチャット形式にて確認することで打ち合わせが終わるまでに解決できるなど、スピード感を感じました。

一方、ベンチャー企業ならではの、荒削りな部分もありました。例えば、サービスの仕様は常に変わっていくものと捉え、必要最低限の部分しか文書化しないなど、銀行内のプロジェクトの進め方とは異なる部分が多く、最初は進め方に苦労する部分もありました。プロジェクトを開始した当時は、マネーフォワードさまも金融機関との提携も始まったばかりということもあり、試行錯誤の段階だったのだと思いますが、今では幅広くサポートいただいております。

こうした進め方の違いはありますが、共通して目指す先はお客さまにとってどのような価値を提供できるかということです。最終的には、相互に議論しながら、リリースまでスピード感を持って進めることができました。

リリース後、お客さまから高評価の声。 現場でお客さまの声をとにかく集め、 サービスの改善・成長に生かす。

リリース後、お客さまからは、「銀行口座の残高やクレジットカードの利用金額が把握できて便利」「さまざまな金融サービスへ別々にログインせずに、一元管理できるから簡単」「自動で家計簿が作れて節約につながるのでとても便利」というポジティブな反応を得ることができました。アプリのユーザー評価も4.0点以上と、高い評価をいただいています。

一方で、インターネットバンキングの新規登録が必要な方や日常的に利用されていないお客さまへの操作説明には苦労しました。
「マネーフォワード for 静岡銀行」を利用する際には、インターネットバンキングのIDやパスワード等の認証情報が必要になります。そのため、これらの認証情報を忘れている方やこれからインターネットバンキングを新規登録される方には、マネーフォワードのご説明の前に、まずインターネットバンキングの内容からご説明する必要がありました。実際に、「マネーフォワード for 静岡銀行」を店頭でお勧めしている行員からも、インターネットバンキングとの連携に関するご案内に苦労しているという声がありました。

その課題をお伝えしたところ、マネーフォワードのご担当者から現地調査をしたいとのご要望をいただき、ご担当の方と一緒に2日間で2店舗を回りながら、来店されたお客さま約300名にサービス内容や利用方法のご説明を行いました。実際にご説明を行う中で、お客さまの反応や、お客さまがサービス利用時にどこでつまずいてしまうのかなどの課題を、マネーフォワードのご担当の方と共有できたのはとても貴重だったと思います。

現地調査を通じてお客さまのつまずくポイントを洗い出し、すぐに改善をしていただきました。その結果、サービスを利用してもらうために必要な指標である、アプリへの当行口座の連携率が30%以上向上しました。

多彩な情報を活かし、 今後も共にサービスの向上を。

今後も、お客さまに寄り添った価値のあるサービスをマネーフォワードさまと共につくっていきたいと思います。ご利用いただいている方に対し、ムダ遣い防止や、家計改善に向けた個別のアドバイス、医療費が10万円を超えている方への医療費控除のご案内など、銀行としてのメインの役割だけでなく、お客さまのお金に関するさまざまな悩みを解決し、生活をより良くするためのお手伝いにつなげていきたいと考えています。

マネーフォワードさまが提供する『マネーフォワード ME』では、給与振込があった際には、「給料が振り込まれました。お仕事お疲れ様でした!」という温かな通知が表示されます。そういったちょっとしたコミュニケーションも銀行は行うべきだと思います。私たちも、銀行がサポートできる給与振込や引き落とし日の事前通知など、もっとお客さま視点に立った機能を追加して、将来的には、お客さまのコンシェルジュアプリのようなものを作っていきたいです。

お客さまが抱えている課題はさまざまなので、これらを実現していくには、家計簿や入出金履歴などのデータを元に何をサポートすべきかを分析し、必要な人に適切なタイミングでアドバイスをしていくことが必要です。これに合わせて、銀行が持つ商品やサービスも、必要に応じて届けていきたいと考えております。

銀行業という枠組みを超えて さまざまな企業さまと連携。

2018年3月にマネーフォワードさまと共同で異業種交流会を開催させていただきました。この会には、Fintechの分野に限らず、AIや不動産、ECなどの各分野で活躍されているベンチャー企業さまにご参加いただきました。現在も継続的に交流会を開催しています。先端技術を有する異業種企業による金融業への参入が増えている今、銀行の在り方をしっかりと考え、必要に応じて外部の技術やサービスを銀行内に取り入れる動きが、今後ますます重要になると感じております。

銀行では、何かサービスを提供する際、案件検討からリリースまでに、さまざまなケースやパターンを想定して、完璧なプランニングを行っていく必要があります。一方、ベンチャー企業は、「まずは取り組んでみて、そこから改善をしてより良いものを作っていきましょう」という姿勢であり、意志決定の早さと柔軟性、ユーザー目線での経営などが感じられます。こうしたベンチャー企業との開発や意思決定スピードのギャップこそ金融機関は埋めていかなければならないと思っています。

今、行内ではウーダループという言葉が浸透しつつあります。これは、担当者が現場で意思決定をして柔軟かつスピーディーな対応をする、というような意味合いです。日々お客さまのニーズが変化している以上、こうしたマインドを持つと同時に、複雑な銀行内の仕組みやワークフローなども少しずつ変えていく必要があると思っています。
銀行業という枠組みを超えてオープンイノベーションを起こすだけでなく、いろいろな垣根をなくしながら、お客さまにとっての最適なサービスを追求し、提供する中で、結果として銀行の目標を達成する。そうした協力体制を、今後も模索しながら、共に歩めればと思います。